野村ID野球
人間は楽をしたいから、たくさん点を取りたい。野手出身の監督は特にそういう発想で、攻撃的なチームを作りたがる。だが、野球は0点に抑えれば絶対に負けない。野村は1対0で勝つことを理想に、チームづくりをしていた。まずは投手を含めた守りを固めるのが、…
1球投げて休憩、1球投げて休憩……。こんな間合いの長いスポーツは野球ぐらいだろう。次のプレーに対して備え、考える時間を与えられている。相手が何を仕掛けてくるか考える。徹底的に相手の嫌がることをする。野球は間違いなく、頭のスポーツ。頭脳戦だ。
選手の信頼があってこそ、初めて監督は自分の目指す野球を実践できる。監督就任最初のキャンプでは、どのチームでも選手をミーティング漬けにし、野球の知識はもちろん、人生論や哲学など野村の持っているすべてを選手にぶつけ、意識改革と信頼獲得を図った…
ヤクルト監督時代、正捕手に抜擢した古田敦也に伝えた言葉。「徹底的に配球を勉強しろ。オレのそばから離れるな」。
人間は、忘れる生き物。野村は現役時代、対戦したすべてのピッチャーの配球やクセをメモしていた。同じ失敗を予防するために欠かせなかった。現在も本やテレビ、人との対話で気づいたこと、感じたことを何でもメモ帳に“記録”している。
プロ入り4年目でホームラン王を獲得。「なんとかプロでやっていけそうだ」と思った矢先、まったく打てなくなった。相手バッテリーから研究されるようになったのだ。技術的限界を感じた野村は、データの活用に活路を見出し(当時の野球界には“データ”という言…
ほとんどの人が不器用である。野村は自分が不器用な人間であることを認識し、それに徹した。そして、たどり着いたのが頭を使い、データを活用する道。その野球はやがて「ID野球」と呼ばれ、今ではどの球団でも取り入れるようになった。
1ゲーム目は、試合前に頭の中で完全試合をイメージする「予測野球」。2ゲーム目は、実際の試合の「実戦野球」。そして3ゲーム目は、試合全体をもう一度振り返り、予測野球(理想)と実戦野球(現実)の差を検証して次に活かすための「反省野球」である。
投げる・打つ・走るという目に見える「有形の力」には限界がある。しかし、観察力、洞察力、判断力、決断力、記憶力。データを収集・分析して活用する力。さらに深い思考と確固たる哲学……これら目に見えない「無形の力」は無限である。磨けば磨くほど、鋭く…
緻密な戦略、知力から生まれた戦いこそプロ。
これを補うのが「観察」。目に見えるものから情報を引き出す力のことである。「洞察」とは目に見えないものを読む力。これの最たるものが心理を見抜く力だと定義する。
テスト生だった野村が三冠王を獲るまで成功した理由。相手投手や捕手の配球を分析したり、16ミリカメラを使ってクセを発見したりしてデータ化した。ノート数十冊分にもなった。当時は“データ分析”という言葉はなく、“傾向”と呼んでいた。
データを大切にする野村だが、データや情報を鵜呑みにはしない。分析や評価を通じて、“知識”に変えている。
「特に日本シリーズの舞台が、一番キャッチャーを成長させる。最低4試合以上あるし、同じ相手と戦うから、キャッチャーは(データ分析などが)大変。記憶、推理、判断が求められる」。
南海時代、苦手にしていた稲尾和久の投球を16ミリカメラで撮影してクセを発見。対戦打率を3割近くまで上げた。だが、南海の同僚でエースの杉浦忠にその話をしたところ、稲尾に伝わってしまい、稲尾はクセを修正してしまった。せっかくのデータ収集、エース攻…
弱いチーム、戦力が低いチームを補うのが、データ分析だった。
データを取る側、受ける側の考え方ひとつである。
分業制が進んだ野球界で必要なこと。そのためには、よく観察することから始まる。監督は選手の意見を聞く力、選手を見る目が問われる。よい状態は何球までか? スタミナは? 性格は? けん制やクイック投法、一番優れた球種などを見極める。
現役時代、レギュラーの座を守るために、自らに課した考え。野村は、当時まだ誰もやっていなかったデータ分析や、ピッチャーのクセを研究して相手バッテリーの配球を読むことで、技術的限界を乗り越えた。