ボヤキのノムさん
現役時代はささやき戦術から「ささやきの野村」と呼ばれていた。ところがヤクルト監督の頃から「ボヤキの野村」になり、楽天の監督退任直後に「ボヤキ」が新語・流行語大賞のトップテンに選ばれた。今やボヤキ=野村が定着してしまった。勝ってボヤキ、負け…
理想があり、それに届かないときに出るのがボヤキ。それは自分自身も対象となった。「思うように選手を動かせないなんて、どれだけオレはヘボなんだ」と…。
だから、ボヤキはネガティブなものではない。理想が高ければ高いほど、ボヤキの頻度が高くなる。
常に弱小球団、注目度の低い球団で監督をしてきた野村が、注目度や人気が抜群に高い阪神の監督に就任したことで味わったこと。
“ボヤキのノムさん”がボヤく理由。「ボヤキは悪い行為ではない。裏を返せば、理想を持っているということ。理想が高ければ高いほどボヤキたくなる」。
捕手は頭の中で完全試合を描く。だが現実はそうはいかない。理想と現実のギャップを埋めるボヤキこそ、捕手の必須条件。
野村の“監督”は夫人の沙知代さん。「世界広しと言えども、あの人についていけるのは私だけだと密かに自負している」。2017年12月8日、沙知代さんは85歳でこの世を去った。野村は、二人三脚で人生の荒波を乗り越えてきた最愛の伴侶を失った。
負けた日のコメント。野村は敗戦に対して、いつも潔い。言い訳をしない。ユーモアを交えながらも、「最終的な責任は自分にある」と真摯に受け止めている。責任を取るリーダー。
2007年、オリックスに敗れ、楽天が単独最下位になって。環境が悪いときほど、ユーモアが必要。野村流のリーダーシップと言える。
1998年、ヤクルト監督を辞任する前に報道陣に向かって。監督在籍時、年賀状は1000枚送られてきたが、監督を辞めると700枚ほどに減るという。“地位がある人に、人は群がる”という現実が見える。
プロ野球屈指の名選手として、多くの記録を残し続けた野村だが、2901安打、657本塁打、1988打点など、記録は歴代2位が多い。「オレらしくていい。地味で目立たない。誰にも興味をもってもらえない記録や」。