プロとは
「人気とはなにか?」野村は交流のあった上方の喜劇役者・藤山寛美の言葉を思い起こす。「兄貴、“人気”ってどう書きます? “人の気”と書くでしょう。人の気をつかむ、人の気を動かすのは大変なことですよ。“自分の気”と書いて人気と読むなら、それは簡単なこ…
何年かにわたって2割5分前後の打率を残している打者がいたとする。1年の多くを一軍のベンチに座ることができているとすれば、おそらく安定を手に入れていると見ていいだろう。だが、この状況に満足するか、さらに上を目指すかがすべて。もし、現状維持で満足…
「プロ意識とは何か?」野村が選手たちに問い続けてきたことである。プロ意識とは、「恥の意識」と同義語である。プロとは、「プロとして恥ずかしい」「プロとしてのプライドが許さない」という意識を常に持っていなければならない。この恥の意識こそが、成…
野球はゲームセットまで何が起きるかわからない。ベンチが勝ったというムードになったときが一番危ない。監督は「まだ試合は終わってないぞ!」と選手を引き締めるようでないといけないし、野村はそれを意図的にやっていた。
コントロールに不安がある投手なら、「最低5球続けてコースに投げられるまでは練習をやめない」というように、自分なりの課題を課しながら練習を行うべきなのに、たいがいの選手はそこに気がついていない。何の工夫もせず、ノルマをこなすかのように漠然と投…
限界を感じたところでいかに刺激するか。あと一歩の努力をするかしないかで人生は決まる。
限界を知るから、超えようとする。限界を感じたときに貪欲さがあるか。この貪欲さがプロ意識である。
野村が監督に就任したときのヤクルトは9年連続Bクラス。人気も実力も、同じ東京を本拠地とする巨人に大きく水を開けられていたが、選手たちはその悔しさを前面に出すどころか、諦めてしまっているように見えた。だから、ことあるごとに選手たちを叱咤し、他…
「気合だ!」「気合が足らん」現役時代、そう叱咤されるたびに、野村は釈然としない気持ちになった。「プロとして、そんなレベルの低いことでいいのか」と。気力や体力などというものは、プロとして持っていて当然。それを強調しなければならないようでは、…
日本プロ野球史上初の3,000試合出場を達成して間もなくの1980年9月28日の阪急ブレーブス戦。4対3とリードされた8回裏、一死満塁で打席が回ってきた。最低でも外野フライを打って、同点にする自信があった。しかし、バッターボックスに向かった瞬間、監督から…
たとえ人から教えられても、自分自身が考えなければ、それ以上の進歩はない。まずは自分の頭で悩み、考え抜かなくては、何事も身につかない。指導者は、効率よく教えてやるのではなく、自分で問いを設定できる力をつけてやることが、何よりも大切。
プロの世界に入っただけで、満足してしまう若い選手は大勢いる。それは企業に入社した人にも当てはまることだろう。世間的に名の知られた会社や、一流と言われる企業に入ったからといって、そこはゴールではない。やっとスタートラインにつくことができたと…
「欲」。プロの選手にとって、これほど扱いづらくやっかいなものはない。オリンピックや大記録のかかった重要な場面であればあるほど、人は欲から離れることができないばかりに、数多くの失敗を重ねる。欲は、人を目的や目標に向かって駆り立てるために欠か…
現役時代、シーズン後の日米野球のこと。本来はオフの時期だが、王と長嶋はほぼフル出場した。野村が長嶋に同情すると長嶋はこう答えた。「休もうと思ってないし、休むわけにもいかないんだよ。ノムさん、お客さんはオレたちを見に来てくれているんだ。だか…
現代のプロ野球は練習設備が整い、プロの世界に足を踏み込んだときからコーチが手取り足取り指導してくれる。だが、一歩間違えれば、その恵まれた環境が選手の自主性や考える力を奪うことにつながる。過保護な親が子どもをダメにするのと同じ。
プロ4年目でホームラン王を獲得。だが翌年、成績が低迷。ホームランを打てるボールが来ず、苦手なカーブで打ち取られ、客席から「カーブが打てないノ・ム・ラ!」とヤジられた。昨年打たれた相手バッテリーが、次は野村を抑えてやろうと、手を尽くして向かっ…
よく選手に聞いた言葉。だが、その答えをすでに知っていた選手は少ない。短いプロ野球人生を生きる以上、それを考えなければいけない。プロ野球選手も客商売。その意識がなければ、自分を磨くことはできない。
自分が笑うために一生懸命やるのはアマチュア。プロは、人に喜んでもらう、笑ってもらうために努力する。
仕事を好きになれるか、これが成功のための大きな要素。好きだから、悔しさをそのままにせず、かみしめて乗り越えることができる。
真剣勝負の場が減り、目の前の仕事をこなすことに汲々とし、小さな利益で満足してしまうプロ野球選手が、日本人が多くなった。
あるセ・パ交流戦の前日に、両軍の主力選手が一緒に食事をしたと聞いて。「いくら真剣勝負と言ったところで、試合前日にグラスを傾け合う人間同士が、本気で斬り合うような勝負をできるはずがない」。
野村がよく選手に聞いた言葉。「自分は何のために仕事をしているのか。将来どうなりたいのか」という目標、ライバル、イメージをはっきりさせることが非常に大切。
価値観や哲学があるからこそ、プロフェッショナルの仕事ができる。
「もっと頑張ればよかった」。プロ野球の世界で活躍できず、途中で辞めることになった選手は、みんな最後に同じことを言う。
努力を努力だと思っているうちは、半人前。「当たり前のことを当たり前にするのがプロ」。
プロ選手である限り、そこそこの成績をあげていれば、世間一般よりずっといい生活ができる。周囲もちやほやしてくれる。「もうこれで満足だ」と思ってしまうのも不思議ではない。だが、その時点で成長は止まる。満足は成長への最大の足かせなのだ。
それまでと同じことをしていては、周囲は満足してくれない。いきおい、周囲は厳しく接するようになる。
「褒めておだてるのは、そうしなければ自ら動こうとする意欲が引き出されないからである」。一人前になれば、褒められなくても自分の意思でさらなる高みを目指そうとする。
「ケガをしていても、言わなければケガではない」。元阪神の金本知憲は言っていた。野村も現役時代はケガをおして試合に出続けた。また、金本は「ケガと故障は違う。ケガはデッドボールのような不可抗力で負うもの。故障は自分の準備が足りないで負うもの」…
野村が打撃の神様・川上哲治のスイングを真似しようと見ていると、川上は前かがみになって、柄杓で水を撒くような低めの素振りを繰り返していた。なぜそんなことをするのか、実際に真似てみて気がついた。「きっと下半身の使い方を身体に覚え込ませているの…