「野村克也の人間通」
日本プロ野球史上初の3,000試合出場を達成して間もなくの1980年9月28日の阪急ブレーブス戦。4対3とリードされた8回裏、一死満塁で打席が回ってきた。最低でも外野フライを打って、同点にする自信があった。しかし、バッターボックスに向かった瞬間、監督から…
たとえ人から教えられても、自分自身が考えなければ、それ以上の進歩はない。まずは自分の頭で悩み、考え抜かなくては、何事も身につかない。指導者は、効率よく教えてやるのではなく、自分で問いを設定できる力をつけてやることが、何よりも大切。
これをどう操るかによって、ピッチングに幅が生まれ、それだけバッターを打ち取る確率を上げることができる。
ものごとや行動はすべて「相対関係」で成立しているというのが、野村の考える究極の原理原則。世の中には絶対的に正しいことなどなく、その逆に、絶対に間違っているということもない。状況や立場によって、右が左になるし、左は右になる。表が裏になること…
「私たちは仕事や生活のさまざまな場面で、ここはどうしたらいいのかと判断に迷うことがある。その迷いや悩みが大きければ大きいほど、原理原則に照らして判断することが、もっとも理にかなったことだと思う。困ったとき、迷ったときこそ、原理原則に立ち返…
仕事と人生は不即不離の関係にある。いい仕事をした人が、いい人生を送れるのであり、いい人生を歩まなければ、いい仕事はできない。人生に対する考え方が確立されていない限り、人はいい仕事ができないのであり、仕事を通じてこそ人間は形成される。
現役時代の野村は、素振りをするときに聴覚に気を使った。「ブンッ」というバットの振幅音が聞こえるときは正しいフォーム、正しい力の入れ方ができているときだった。いったんその感覚をつかんだときは、すぐに実戦で試したくなり、早く明日になれと思った…
運、不運には、必ずと言っていいほど、それなりの理由や過程があるもの。その意味で、運も実力のうちだし、自ら努力してつかまえるものだとも言える。自分は運が悪いと嘆いたり、今回は運がなかったと済ませてしまう人も多いが、それでは幸運をつかむことが…
本質を捉えるには「観る」目が必要。「見る」は目で見ることだが、「観る」は心で見ることを言う。「見る」は表面的なものだが、「観る」は状況を判断するために意識してものを見るという深さがある。いわゆる「観見二眼」というものだが、これはスポーツだ…
プロの世界に入っただけで、満足してしまう若い選手は大勢いる。それは企業に入社した人にも当てはまることだろう。世間的に名の知られた会社や、一流と言われる企業に入ったからといって、そこはゴールではない。やっとスタートラインにつくことができたと…
伸び悩んでいたり、壁にぶつかっている人間に野村が言う言葉。これまでどおりのことを続けていたのでは進歩も発展もない、窮地を脱することもできない、というときがある。そんなときは、自分自身を変えるしかない。
自分の持っている特技や長所を最大限に活かし、それで勝負する。即戦力といえる技量をひとつでも持っていれば、チャンスは与えられる。これは就職難で悩む若者にも共通するアドバイスかもしれない。
努力とは地道なものである。努力に即効性はない。小さなことを単純にコツコツと積み上げるしかない。そして、それがやがて大きな成果につながるということが頭でわかってはいても、継続させることは並大抵の意志ではかなわない。努力という言葉は、まさしく…
職場や学校で天才的な才能を発揮する人など、ごく一握り。天性や天分に恵まれていないことを嘆いたところで、どうにもならない。そこからどうするかが、人間としての問題。
それは、生物の進化を見ていてもわかる。弱肉強食というが、強いものが生き延びたのではない。変化する環境に適応できたものだけが生き残ることができたのだ。
感謝の気持ちがあってはじめて、人には感じる力が養われる。感じる力が備わってくると、考える力も並行して鍛えられる。感じる力と考える力は一体のものなのだと、野村は考えている。
人間は決してひとりだけでは生きていけない。人に対する感謝はもちろんだが、社会や自然に対する感謝、さらに宗教を持つ持たないにかかわらず、この世を動かしている大いなる摂理に対する感謝など、我々が感謝しなければならないものはたくさんある。
もう野球をできない野球人なのに、サンケイスポーツの野球評論やスポーツ番組のレギュラー、本のための取材、講演会など、野村には常に野球に関する仕事が入る。声をかけてもらえる以上、働き続ける。そうして仕事をこなしていると、体だけではなく神経も頭…
「欲」。プロの選手にとって、これほど扱いづらくやっかいなものはない。オリンピックや大記録のかかった重要な場面であればあるほど、人は欲から離れることができないばかりに、数多くの失敗を重ねる。欲は、人を目的や目標に向かって駆り立てるために欠か…
「大欲は無欲に似たり」という言葉の解釈。もうひとつの解釈は、欲が深すぎる人は、それに惑わされて損をすることになり、無欲と同じような結果に終わるというもの。
野村の長い野球生活の中で、「知る」ことは最大のテーマだった。おのれを知り、相手を知ることで、自ずといますべきことが見えてくるのだ。
「汝自身を知れ」。この有名な言葉は、古代ギリシャのデルフォイの丘に建つ、アポロン神殿の入口の柱に刻まれた格言のひとつだという。このような神聖な場所に、そんな言葉が刻まれているということは、それだけ人間にとって、おのれ自身を知ることがいかに…
これまで数多くのプロ野球選手や関係者をはじめ、多くの人間と接する機会を持ってきた野村の持論。このような人間は、失敗したり、つまづいたりしても、ちょっとしたことでヒントを得たり、自分なりに工夫して、そこから力強く立ち直っていく。