野球人たる前に社会人たれ
人生とは縁そのものだと考えている。人との出会いが人生をつくっていると言ってもいい。広い世界でその人と出会ったということは、それだけでなにか意味があることだ。
才能があっても人徳が備わっていなければ、家に主人がおらず、使用人が好き勝手に動いているようなものだ。
野村は近年、「とは理論」を提唱している。打撃とは、投手とは、仕事とは、人生とは……。何でもいい。「とは精神」を持ち、自問自答していくことで、考えが深まる。
人間は生まれてきたからには、幸せをつかみ取らないといけない。監督時代、キャンプのミーティングでは、野球理論よりも人間学、人生訓の方が多かった。
躾(しつけ)の目的は、自分で自分を支配できる人間、すなわちセルフコントロールができる人間をつくることにある。自分で自分をコントロールできてはじめて、人間は何がしかの物事を成すことができる。
1990年2月、野村がヤクルトの監督に就任してはじめてのユマキャンプ。全選手を集めたミーティングで、野村は野球の技術論・戦術論の話を一切せず、人間として生きる上での人生訓を選手たちに説いた。身体を動かしての技術の習得も非常に大切だが、その選手が…
人間は決してひとりだけでは生きていけない。人に対する感謝はもちろんだが、社会や自然に対する感謝、さらに宗教を持つ持たないにかかわらず、この世を動かしている大いなる摂理に対する感謝など、我々が感謝しなければならないものはたくさんある。
野村の長い野球人生の中で最も幸福で充実していたのが、ヤクルトの監督を務めた9年間だった。相馬和夫球団社長は野村を全面的に信頼し、もしも野村が失敗した場合はすべての責任を取ると言い放ち、その姿勢を貫いた。その信頼関係の下、野村は安心して自身の…
礼儀とは、その人が持つ感性の原点である。
ヤクルトでは、相馬和夫球団社長が全面協力してくれた。南海では、蔭山和夫ヘッドコーチが味方になってくれた。自分自身のことをわかってくれる人が一人でもいれば、胸を張って自分らしい人生を生きていける。
いくら話の内容が正しくても、人間性に問題がある人は信頼を得ることはできない。
V9の巨人を率いた名将・川上哲治は、細かい技術指導はコーチに任せ、本人は選手の人間教育に力を入れたことで知られる。人間教育、社会教育をはじめ、生活面、礼儀作法の細かい部分にも及んだという。王、長嶋も特別扱いされず、厳しい指導を受けた。
人生には、いくつもの区切りがある。だが、そこで今までの経験やその価値がなくなるわけではない。それを活かすことができるか否かは、自分次第。
野村は現役時代から引退後のことを考えてきた。多くのプロ野球選手が引退してはじめて、次の行き先を考え始めるが、それでは遅いのだ。将来どうあるべきかを考え、日々勉強して準備をしなければならない。
監督時代、ミーティングで選手たちに話した言葉。
価値観や哲学があるからこそ、プロフェッショナルの仕事ができる。
人間教育をすることで、選手は自ら学ぶ意欲を高め、他者の視点から物事を考えられるようになる。これにより、技術面へのアドバイスをしたときに、自分自身で多くの「気づき」が得られるようになる。
選手を指導する真の目的は、「技術的なことを教える」ではなく、「正しい考え方のエキスを注入すること」にある。その選手の考え方が、そのまま今の取り組みに反映される。いくら表面的な技術面の指導をしても、考え方自体が間違っていれば、その選手は伸び…
耳は教養や知識を入れるために大きく開いておき、口はしゃべりすぎないよう、控えめに小さくしておくべし、という意味。これが逆になっている人も少なくない。
ヤクルト監督時代、優勝を決めたあと、消化試合でBクラスのチームと対戦した。そのチームの選手は野村の顔を見ても「こんにちは」と言うだけだった。そのあと巨人の選手と会うと、皆が口々に「おめでとうございます」と言ってくれた。「さすがは巨人だな……」…
野球選手と言えども、一般社会の中で認められるようになることが大切。一般社会で認められれば、その後の人生に困ることはない。そのためには、何よりもまずしっかりとした人生観を確立しなければならない。
楽天時代の田中将大に対して。田中が将来、日本を代表するピッチャーになるためには、人間形成が必要不可欠であり、そのためには二十代前半の過ごし方が最も大事だと野村は考えていた。2014年1月22日、田中は米大リーグ・ヤンキースと7年総額1億5500万ドル(…
人生と仕事を切り離して考えることはできない。いくら技術を磨いても、考え方、取り組み方が変わらなければ、進歩することもない。
野村の好きな言葉。意識が変わることで野球観が変わり、野球観が変われば、日頃の行いや野球に対する取り組み方が変わる。取り組み方が変われば、プレーの質が高まり評価も上がる。それが個人タイトルやチームの優勝につながり、結果としてその選手の運命と…
「技術を伸ばしたい」者に野村がいう言葉。選手として一流である前に、人間として一流であらねばならない。
遊びにはそれ相応の工夫と計画性が必要。おのずと節度も求められる。それなくしては、遊びに溺れかねない。
自分だけが気持ちよく投げるのではなく、どうすれば相手も気持ちよく受けられるか、という思いやりの心が必要。そうすることで、おのずと正しいフォームで投げることにつながるだけでなく、チームワークも生まれる。
それが人間形成につながり、人からも高い評価をされるようになり、愛され、人間関係を円滑にしてくれる。
礼儀が身についていない人間は社会で相手にされない。逆に言えば、礼儀さえきちんとわきまえていれば、社会に出ても最低限困ることはない。憲法を知らなくても生きていけるけれど、礼儀を知らなければ生きていくのは難しい。
70歳で楽天監督の要請があったときに考えたこと。