「野村四録 不惑の書 生涯現役の理念」
世の中もずいぶんと幼稚な世界になってしまった。政治のこと、経済のこと、日々起こる犯罪など……。野村は、野球とは、仕事とは、人生とは、と自問自答していくことで考えが深まる「とは理論」を説いてきた。考えることを放棄していては、この「幼稚さ」の渦…
言葉を磨くためにいちばん有効なのが読書ではないだろうか。良書を読むことはその人の表現力を豊かにする。野村自身も、評論家時代に貪るように本を読んだことで自分の言葉を獲得できたと思っている。
新しい体験というのは、いくつになっても怖いもの。これまでの価値観や枠組みを壊すことは勇気のいることだが、その勇気を失ってしまったとき、人は進歩や創造から遠ざかっていくことになる。老いのはじまりだ。
個人の数字も大事だが、自らが所属するチームに貢献することがもっともっと大事だ。このことを理解し実行する人間が組織のなかに多ければ多いほど、より強固なチームへと成長していく。
人生とは縁そのものだと考えている。人との出会いが人生をつくっていると言ってもいい。広い世界でその人と出会ったということは、それだけでなにか意味があることだ。
それが、その人の人間力を決定づける。
すべてのボールを一球入魂、全力投球したがるのが「真面目な優等生」、手を抜いても許されるところでは加減して、遊び心を持って投げているのが「不真面目な優等生」。エースと呼ばれる投手は、そのほとんどが不真面目な優等生だった。人生だって、適度な遊…
才能があっても人徳が備わっていなければ、家に主人がおらず、使用人が好き勝手に動いているようなものだ。
小さなことの積み重ねの先には、大きな光が待っている。人の心に最終的に残るものとは、自らが考えて導き出しこだわって取り組んだ「小さなこと」だ。
いまでも野村は、見抜く力、読み取る力にかけては、大方の現役選手に負けない自信がある。プロ野球の世界で全神経を集中して、何十年もクセを見抜く訓練を続けてきたのだから、そこらの選手とは見えるものがちがうのだ。キャリアは嘘をつかない。そこには、…
家族やふるさと、国を愛せない人間に「チームを優先させる」ことはできない。1、2点リードされた終盤に、先頭打者がすべきことは、可能な限りピッチャーに余計な玉を投げさせ、勝利への執念を見せること。それが相手バッテリーやベンチにプレッシャーをかけ…
「人気とはなにか?」野村は交流のあった上方の喜劇役者・藤山寛美の言葉を思い起こす。「兄貴、“人気”ってどう書きます? “人の気”と書くでしょう。人の気をつかむ、人の気を動かすのは大変なことですよ。“自分の気”と書いて人気と読むなら、それは簡単なこ…
口下手であり表現下手を自認している野村。しかし、感情はたっぷりと持っているつもりだ。それに、なにに対しても積極的に感応するという精神態度だけは失うまいと、いまも日々気をつけている。喜怒哀楽はどれも重要な感情で、はっきりあったほうがいい。
人の悪口とは本来は否定的なものであるが、野村は悪口を言うか言わないかを信用度をはかるバロメーターとしても使っている。周囲との対立を極端に避ける人間は、自分の意見を押し隠したり、相手によって意見を翻したりする傾向がある。その人の本心が読み取…
かつてに比べ現代社会においては、どうも口が達者で、如才なく立ち回れる人間が得をする傾向にある。才気煥発であることがもてはやされて、人物の器さえないがしろにされてしまっているのだ。うまい話には裏があるように、調子のいいことばかり言う連中には…
そして、その「弱さ」から這い上がれるかどうかは、結局は自分自身にかかっている。「人は皆弱者である」これもまた野村の持論である。
振り返ってみれば、野村の人生は「まさか」の連続であった。「まさか」という「運」が次から次へと身に起こり、そのたびにそれをチャンスに転化することによって人生を切り開いてきた。どんな状況でも、常に先を見据えることが肝要だ。